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陸軍航空の情報センター

NATO(北大西洋条約機構)6か国がNGRC(次世代回転翼機開発)で協力へ

本プロジェクトに向けたフランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、オランダおよびイギリスの取り組み

クリスティーナ・マッケンジー

NATO6か国は、イギリスのAW101マーリン(写真)のような旧型機種のアップグレードを検討している。(Leon Neal/Getty Images)

ユーロサトリ2022)NATO(North Atlantic Treaty Organization, 北大西洋条約機構)NGRC(Next Generation Rotorcraft Capability, 次世代回転翼機能力開発)プロジェクトが、本日、ブラッセルで正式に創設され、ヨーロッパのNATO加盟6か国は、現有機に代わる新しい中型多用途ヘリコプターのための要求事項を定義するため、2670万ユーロ(2820万ドル)の資金を投入することで合意した。

2020年11月にLOI(letter of intent, 基本合意書)に署名していたのは、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリアおよびイギリスであったが、本日署名されたMOU(Memorandum of Understanding, 了解事項覚書)では、新たにオランダがプロジェクトに加入することになった。以前に関心を示していたスペインおよびアメリカは、最終的に参加を見送った。このプロジェクトを主導しているのは、イギリスである。

このプロジェクトの目標は、現在運用中の機体の多くがライフサイクルの終わりに達する2035年頃までに、NH90AW101マーリンなどの現世代の中型多用途ヘリコプターを更新することにある。今回の合意は、開発された機体の調達を参加国に義務付けるものではないが、同じシステムを運用しているNATOの6か国にとって、相互運用性のメリットがあるのは明らかであり、少なくとも計算上は、大量調達によるコストの低減も期待できる。

NATOのミルチャ・ジョアナ事務次長は、今回のMOUの署名について、「NATOと同盟国が、急速に変化する技術を我々の軍事能力の利益のために利用するために協力し合うことを示したものです。資金を投入し、多国間の枠組みを通じた開発を進めることで、同盟国が最高の装備を保有することを確実にしようとしているのです」と語った。

先日開催されたNATO国防相会議での共同声明では、「参加国は、産業界と協力して、ハイブリッドや電気推進、体系的なオープン・システム・アーキテクチャ、大幅に改善された飛行性能の実現などの選択肢を白紙状態から検討し、我々のニーズを市場の最新技術に適合させる方法を探求する」と発表された。

この声明の中の「白紙状態」という表現は、昨年9月にルクセンブルクで開催されたNGRCインダストリー・デーの後にヨーロッパの企業が表明した懸念を表している。このプロジェクトが米国のシステムを選択する方向に向かっているのではないかという疑念を抱いたからである。

パリで開催されたユーロサトリにおいて、ある業界関係者は、匿名を条件に、提供可能な能力について議論することを期待していたが、要求事項のリストを渡されただけだった、とブレイキング・ディフェンス誌に語った。

「驚いたことに、新しい機体の特性がどうあるべきかを聞かされただけでした。通常は、まず、その機体の使用目的が示され、次にその特性について話し合われるべきなのです」と当該関係者は述べた。

示された要求事項の中で最も重要なのは、最高速度が約220ノット(時速約253マイル, 時速約407キロメートル)という非常に高い速度を要求されていることである。これは、新しいヘリコプターが、ティルト・ローターやハイブリッド・システムなどの非伝統的なヘリコプター設計でなければならないことを意味する。さらに、その戦闘行動半径には、現在のヘリコプターの2倍である約1,180マイル(約2185キロメートル)が求められている。しかも、その機体は、安価でなければならない。

アメリカ陸軍とイギリス陸軍は、「FVL(Future Vertical Lift, 将来型垂直離着陸機)の実現可能性評価」の実施に合意している。このため、イギリス国防省は、アメリカ陸軍の要求事項関連文書にアクセスし、自らの意思決定プロセスに必要な情報を得ることが可能である。イギリスが主導するNGRCプロジェクトの要求事項がアメリカ陸軍のFVLプロジェクトの要求事項と同一だったことは、FVLの勝者がNGRCの勝者になるようにNGRCの要求事項が書かれているのではないかという疑念をヨーロッパ産業界に抱かせることとなった。

それは、ヨーロッパの企業に受け入れがたいことである。アメリカ陸軍の速度および行動半径に関する要求事項は、島嶼間を飛行する太平洋での作戦に必要な事項であり、ヨーロッパ戦域では全く必要としないからである。

エアバス・ヘリコプター社の関係者は、その速度を実現するためには、現行機種よりも約30%大きな最大離陸重量が17トンもある機体でなければならず、「艦船への着艦が困難になるなど、多くの問題が生じる」と述べている。また、昨日のユーロサトリーでのNGRCに関する会議において、「もし陸軍と国防省が速度を要求するならば、調達および兵站コストが増加し、より少ない機数しか調達できない可能性がある」と付け加えた。

このため、エアバス・ヘリコプター社の広報担当者は、今回の共同声明の中で「白紙状態」という文言が用いられたことを歓迎している。同社は、2021年にNGRT(Next Generation Rotorcraft Technologies, 次世代回転翼機技術開発)プロジェクトに対する欧州防衛基金(European Defense Fund)からの4000万ユーロ(4220万ドル)の助成金を要望している。

同社の広報担当者によると、NGRTプロジェクトは、ステルスや有人/無人機チームなどの技術への取り組みを可能にする。これらは、NGRCにとって、とりわけ不可欠な技術だという。

加えて、現世代のヨーロッパ製中型ヘリコプターを更新するためには、「ヨーロッパ独自の提案が必要だ」とも述べている。

もちろん、アメリカ企業は、たとえアメリカ政府の正式な参加がなくても、このプロジェクトを注視し続けることであろう。ただし、その際には、ある程度の現地生産が必要となる。

ボーイング社のバーチカル・セールス/ビジネス・デビロプメント専務理事のマイク・スペンサーは、ブレイキング・ディフェンス誌に対し、「ヨーロッパでの製造は、ひとつの重要な機会であると考えています」と語った。

「このプロジェクトに参加するためには、1つまたは複数のヨーロッパ製造企業と何らかの提携を結ぶ必要があります。この機体には、アメリカ陸軍のFVLほどではないものの、行動半径や速度、搭乗者数の増加が求められています。我々は、ヨーロッパのパートナーに対し複数の設計オプションを提案できます。」と述べた。

本記事の執筆には、セントルイスのバレリー・ インシナが協力しました。

                               

出典:Breaking Defense, Breaking Media, Inc. 2022年06月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    半年以上前の記事ですが、アメリカ以外の国のヘリコプター開発状況を把握するため、翻訳してみました。