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V-280の選択で戦術的独立性を得たアメリカ陸軍

リチャード・トーマス

V-280に採用されているティルトローター方式は、従来の回転翼機と比べて、大幅な行動半径および速度の増加をもらたす。写真提供:ベル・テキストロン社

アメリカ陸軍のFLRAA(Future Long Range Assault Aircraft, 将来型長距離強襲機)計画をめぐる同軸反転式(co-axial)ヘリコプターティルトローター(tiltrotor)機の戦いで勝利を収めたのは、ティルトローターであるベル・テキストロン社のV-280バローであった。この選択は、アメリカ陸軍が海軍や空軍から独立して作戦を行うことを容易にするであろう。

FVL(将来型垂直離着陸機)計画の一環として攻撃および多用途ヘリコプターの一部を更新するFLRAA計画が開始されたのは、2019年のことであった。この機体は、過去40年以上にわたって使用されてきたUH-60ブラック・ホークに取って代わることになる。

アメリカ陸軍は、12月5日に行われた発表の中で、FLRAAは「空中機動作戦の範囲を拡大し、遠隔地での作戦における地上部隊の投入を容易にすることにより、戦場の縦深を拡大できるであろう」と述べた。

同時に出された声明の中で、調達・兵站・技術担当陸軍次官補のダグ・ブッシュは、「陸軍にとって重要なこの日を、その一員として迎えられたことを嬉しく思っています」と述べた。「…FLRAA計画が生み出す戦略は、統合部隊を支援し、抑止力を強化し、マルチドメイン作戦で勝利するために必要な変革能力(transformational capabilities)をもたらすに違いありません。」

大変革をもたらす新たな能力

グローバルデータ社の航空宇宙・防衛・安全保障担当主任アナリストであるダニエル・モリス氏によると、最大800海マイル(約1,481キロメートル)の航続距離と、280ノット(時速約519キロメートル)の最高速度を発揮すると推定されるV-280は、アメリカ陸軍に「独自の戦術環境」での作戦遂行を可能にするという。

「これは、より遠方からアメリカ陸軍を運用できるようになることを意味します。この航続距離と速度は『島伝い(island hop)』の作戦を可能にするものであり、アメリカ軍が依然として太平洋における中国軍を主要な敵と見なしていることを浮き彫りにするものです」と述べたうえで、アメリカ陸軍は他の軍種からの支援に依存することなく戦術部隊を展開できるようになると付け加えた。

ただし、アメリカ海軍、海兵隊、および空軍が用いるティルトローター機であるV-22オスプレイは、多くの死亡事故を発生させている。また、第1海兵ヘリコプター飛行隊(事実上の大統領専用飛行隊)は、この機体を現職の大統領の空輸には用いていない(訳者注:同隊には、支援機として12機のMV-22Bオスプレイが装備されている。)今でも、旧式のシコルスキーS-61ヘリコプターが使われているのである。(訳者注:S-61の後継機には、同じくシコルスキー社が製造するV-92が選定されているが、VIP空輸にはまだ用いられていない。)

アメリカ陸軍によれば、V-280を開発する企業チームの次のステップは、この機体の設計、統合、訓練、および開発試験に用いられるバーチャル試作機を完成させることだという。このバーチャル試作機による開発過程は、納期短縮を目的とした調達改革の一環として行われるものであり、議会からの承認も得られている。

モリス氏によると、ベル・テキストロン社が作成するバーチャル試作機は、テスト・パイロットやアメリカ陸軍からの要望に応じた修正が加えられ、2030年までには最初の部隊にV-280 FLRAAが配備されることになる。実機の試作機は、2025年までにアメリカ陸軍に納入される予定である。

12月5日、アメリカ陸軍FVL機能横断型チーム(Cross-Functional Team)の部長であるウォルター・ルーガン少将は、今回の「試作機製造におけるリスク軽減への取り組み」により、アメリカ陸軍は、その意志決定に必要な時間を「大幅に短縮」することができると述べた。

対抗チームの行動方針は?

FLRAAの機種選定をめぐるV-280の対抗馬は、アメリカの航空宇宙・防衛大手企業であるロッキード・マーチン社とボーイング社が製造したSB-1デファイアントXであった。モリス氏によれば、デファイアントXやより小型のレイダーXに共通して採用されている独自の同軸反転方式は、「アメリカのヘリコプターにとっては、比較的新しい」ものであった。

同軸反転方式を採用したデファイアント(手前側)とレイダーX(奥側)。レイダーXがFLRAAの姉妹計画であるFARAに選ばれるかどうかが注目される。写真提供:ロッキード・マーチン社

同軸反転式の機体はロシア軍とその輸出市場で広く普及している。低速でのホバリング性能や安定性が高く、双発機であれば、従来のヘリコプターと同様に、一方のエンジンが出力を失った場合でも、安全に着陸できるという特長を有している。

モリス氏は、「世界最大の防衛航空宇宙メーカーであるロッキードとボーイングが、今回の決定でこの方式の実現を諦めるとは思えません。(FLRAAに関連する別な計画である)FARA(Future Attack Reconnaissance Aircraft, 将来型攻撃偵察機)計画での勝利に向け、全力を尽くすことになるでしょう。この方式は、FARAプログラムでは最も先進的な飛行方式であり、FLRAA計画で得られた教訓が活用できるはずです」と述べている。

アメリカ陸軍はV-280ティルトローターの導入を目指すものの、現在運用されている数千機のUH-60ヘリコプターのすべてを1対1で置き換えることはできないであろう。モリスは、米陸軍は、より単純な任務に使用するための機数を確保するため、「何らかの形」で従来のヘリコプターを維持する可能性が高いとも述べている。「輸出のことを考えると、すべての軍隊がV-280のような高度なシステムを調達したり、維持したりできるわけではありません。従来型ヘリコプターの時代が終わりを告げたとは思えないのです」

                               

出典:US Army gains tactical independence with V-280 selection, ArmyTechnology 2022年12月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

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