疲れ切った状態でのけん引作業

砂漠での過酷な訓練飛行を終えた搭乗員たちは、自分たちの成果に満足していました。あとはヘリコプターを離れる前の点検を実施するだけでした。しかし、その夜最大の失敗がまさに起ころうとしていることを、彼らは知る由もありませんでした。
より明るい環境で飛行後点検を行うため、搭乗員4名だけで航空機を格納庫へけん引し始めました。突然、左側から激しい金属音が聞こえたため、リーダーは停止を命じ、状況を確認するように指示しました。最初に異常に気づいたのは、機体左側のブレード・ウォーキングを担当していたクルー・チーフでした。ガンナーズ・ウィンドウから垂れ下がっていた搭乗員戦闘装具(Aircrew Combat Equipment, ACE)ベストのレッグ・ストラップがタイヤの下に引き込まれて引きずられ、タイヤに損傷が生じていました。ベスト本体への損傷はありませんでしたが、タイヤの交換が必要となりました。
航空機のけん引は、操縦士にとってごく日常的な作業です。このインシデントは単なる搭乗員のミスに見えるかも知れませんが、実態はより複雑です。この事例は、航空事故においてあまりにもよく見られる三つのヒューマン・ファクター——疲労、作戦規程(Standard Operating Procedures, SOP)の不履行、そして時間的プレッシャー——が引き起こした結果でした。
疲労
訓練教令(Training Circular)3-04.93「搭乗員のための航空医学訓練(Aeromedical Training for Flight Personnel)」第3章には、「飛行作戦におけるストレスと疲労は、任務遂行と航空安全に悪影響を及ぼす」と記載されています。この事故は、勤務時間の最後の3分の1で発生しました。判断力の低下、反応時間の遅延、細部への注意力の低下——これらはすべて疲労によるものであり、本来であれば単純な作業の実施に影響を及ぼしたのです。クルー・チーフは、タイヤの前のウィンドウから垂れ下がっていたレッグ・ストラップに気づきませんでした。ブレーキ担当者もけん引車ドライバーも、けん引前のウォーク・アラウンドを実施しませんでした。夜間作業では、特段の注意が必要です。高い集中力と鋭い目があれば、この事故は防げたはずです。
標準からの逸脱
当該部隊のSOPによれば、けん引作業には7名が必要とされています。この手順は、ヘリコプター周囲の状況把握を確実にし、事故の要因を事前に発見できるようにするために定められています。その日、部隊の他の隊員はすでに帰宅しており、搭乗員たちは「これまで何百回もやってきたので大丈夫だ」という思い込みに陥っていました。標準手順から逸脱するという判断が、SOPに従っていれば解消できたはずのハザードを招いたのです。SOPは過度に慎重に見えることもありますが、綿密な手順を通じて予測困難なリスクを低減するためのものなのです。
時間的プレッシャー
この事故の最後の原因要因は、仕事を急いで終わらせようとする焦り——いわゆる「ゲット・ホーム病(get-home-itis)」——でした。長時間の飛行を終えたにもかかわらず、まだ飛行後の点検が残っていました。搭乗員はこの作業を少しでも早く済ませて、帰宅したかったのです。このようなことは、すべての操縦士に経験があるはずであり、それが意思決定に及ぼす影響を自覚しておく必要があります。作業を急いだ搭乗員たちの判断が基本的な安全措置の欠如につながり、ヘリコプターの損傷を招く結果となりました。
教訓
この事故は、疲労・標準からの逸脱・時間的プレッシャーの危険性を改めて痛感させる出来事となりました。この搭乗員たちは、疲労が判断力に影響を及ぼすことに無頓着でした。続いて、SOPに従わなかったことで、けん引作業にクルーが想定していなかったリスクをもたらしました。さらに、早く帰宅しようと飛行後の点検を急いで終わらせようとしたことが、タイヤを損傷させ、結果としてさらに多くの時間と手間を要することになりました。この事故を受けて、当該部隊は、夜間に飛行を終了した場合は、機体をエプロンに駐機したままにすることとしました。このプロセスを導入することで、十分な人数のけん引チームと休息を取った搭乗員たちが、昼間に機体をけん引し、焦ることなく飛行後の整備点検を実施できるようになります。
陸軍航空は、理由があって定められた規則と規程を基盤としています。操縦士は、作戦のあらゆる段階において疲労が意思決定に与える影響を真剣に受け止め、慢心が手順の省略につながることを決して許してはなりません。事故はどこでも起こり得ます。疲れていて、手順を省きたいと思った時こそ、立ち止まって手順の遵守を思い出してください。搭乗員、航空機、そして任務は、手順を守るに値します。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2026年04月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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