V-22オスプレイは、皆が思っているほど危険な機体なのか?
過去に数々の挫折を味わってきたオスプレイであるが、むしろ安全で信頼できることを自ら証明してきたと言ってよい。
2022年12月5日、アメリカ陸軍はUH-60ブラック・ホークの後継機にベル社のティルトローターV-280バローを選定したと発表した。その直後から、安全性に問題があると言われるV-22オスプレイと同じティルトローター機であることがV-280の性能にどのような影響を及ぼすのか、という質問が数多く寄せられている。
そのような疑問を持つこと自体は必ずしも間違いではない。1990年代初頭には、V-22オスプレイが多数の軍人の死者を伴う事故をたびたび発生させて注目を浴びてきた。確かに過去には数々の挫折を味わってきたが、その後は安全で信頼できる機体であることを自ら証明してきたというのが本当のところなのである。
オスプレイでの最初の死亡事故は、1992年7月に発生した7名の海兵隊員が死亡した事故であった。その8年後には、海兵隊員を満載したオスプレイが墜落し19人が死亡した。オスプレイではこれまでに51名の軍人が墜落事故で死亡している。最近では、2022年6月に第3海兵航空団所属のオスプレイがカリフォルニアで墜落して5名の隊員が死亡した。
訓練や戦闘で兵士を失うことは極めて残念なことである。しかし、UH-60の後継機であるV-280が危険な機体かどうかを正しく判断するには、これらの悲劇的な事件を「客観性」というなかなか手に入らない「レンズ」を通して見ることが求められる。
死亡事故はいかなる軍用機にとっても不幸な事態である。死亡事故の多くは訓練や整備を適切に行えば回避できた可能性があるというのは正しい。その一方で、そういった不幸に見舞われてきたのはオスプレイだけではないことも確かだ。
国防総省においては、2013年から2020年12月の間に6,000件以上の航空事故で224人の軍人が死亡し、186機の航空機が大破して約100億ドル相当の損害が生じている。
オスプレイは確かに評判の良くない機体であるが、その軍全体や海兵隊内における事故発生件数は、異常なほど高いわけではない。7月にアメリカ海兵隊航空報道官のホルヘ・ヘルナンデス少佐が『ミリタリー・タイムズ』紙に宛てた電子メールによれば、アメリカ海兵隊のMV-22オスプレイの10万飛行時間あたりの事故発生率は、ハリアー、スーパー・ホーネット、F-35B、CH-53Eスーパー・スタリオンよりも低いという。
7月8日付けのメールには、「MV-22の10年間の平均事故率は10万飛行時間当たり3.16件」であると記載されている。
オスプレイが飛行を開始してから33年の間に事故で死亡した軍人の数は、51名にのぼる。しかし、ArmyAirCrews.comが集計したリストによると、H-60ブラック・ホークが飛行を開始してから33年間に戦闘に関連しない事故で死亡したアメリカ軍兵士および民間人は180人以上なのである。もちろん、ブラック・ホークの機数はオスプレイよりもはるかに多いことを考慮するのを忘れてはならない。残念ながら、UH-60の運用開始直後の時期における10万飛行時間あたりの事故率について正確なデータを入手することはできていない。ただし、ブラック・ホークにも他の機種と同じように開発段階における挫折があったのは明らかである。
アメリカ陸軍に導入されてから6年後の1985年4月には、合計37名が死亡した23件の事故の調査が完了するまでの間、約630機のUH-60が飛行停止になった。その3年後、ブラック・ホークの機数は970機に増加していたが、さらに8件の事件が発生し累計死者数は65名に達した。これほど多数の死亡事故が発生したにもかかわらず、1988年3月にアメリカ陸軍はブラック・ホークが「陸軍がこれまでに飛行した中で最も安全なヘリコプター」であると発表している。導入初期段階におけるブラック・ホークの事故発生率は、オスプレイほどには悪くなかったのであろう。ただし、当時のヘリコプター技術はオスプレイが就航した当時のティルトローターよりもかなり成熟していたことを忘れてはならない。
ここで言いたいのは、オスプレイがブラック・ホークよりも安全だということではない。軍用機の世界には本質的にこうした悲劇がある程度存在せざるを得ないということだ。
オスプレイが安全ではないと認識されてしまったのにはいくつかの要因がある。1つ目は、何十年もの歴史を持つ機種とは異なり、V-22は2007年に運用を開始したばかりの機種であることだ。人と同じように航空機も第一印象を得る機会は1回しかないことが多い。導入初期段階でのオスプレイの墜落事故は、極めて悪い印象を明確に残してしまった。
2つ目は、オスプレイはアメリカ海兵隊の主力輸送機としての役割を担っていることだ。戦闘機が墜落した場合の死者は1名か2名だが、20数名の海兵隊員を乗せた輸送機が墜落した場合にははるかに多くの死者が発生しがちである。このため、アメリカ海兵隊のホーネットやスーパー・ホーネットが、オスプレイの2倍以上の頻度で墜落したとしても、それによる死者数ははるかに少なくて済むのである。
V-22オスプレイは、H-60シリーズよりもはるかに高い頻度で死亡事故を起こしているかも知れないが、既に50年近く飛行してきた機体と単純に比較することはできない。ティルトローター機であるオスプレイはその運用期間中にいくつかの悲劇的な事故を経験してきたものの、皆が思っているような「システム的に不安全な機体」ではないと考えるのが妥当であろう。
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4件のコメント
「人と同じように、航空機も第一印象を得る機会は1回しかないことが多い」という説明には説得力があるような気がします。
個人的には、事故発生率は、ある機体の安全性を他の機種と比較するための手段としては不適切なのではないかと思っています。飛行速度や航続距離、搭載重量や搭載人員数、役割などの条件が大きく異なるからです。もし、そのための手段として適切なのであれば、人は自分が毎日乗る車や、明日乗る旅客機の事故発生率にもっと関心を持つはずです。
多くの精鋭部隊が犠牲になりながら成熟した軍用機になり、より多くの人々の平和に寄与するならば、この尊い人たちに感謝の念をわすれてはならない。また、積極的に運営する事が慰霊になると思います。
コメントありがとうございます。
そのとおりですね。