AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

エア・ウォーリア

-航空戦士を守るために-

陸軍中佐 マイケル D. ウィルス

エア・ウォーリア(航空機搭乗者用装具)システムの装備化は、計画の3、4倍の速度で進捗しており、戦場で活動している航空戦士の装備を大幅に改善させている。このシステムは、非常に多くの機能を有し、これまでにも多くの搭乗員の生命を守って、高い評価を受けているが、イラクやアフガニスタンに派遣されている部隊からの改善要望に基づき、更なる改良が続けられている。2005年末までに、合計6,500セットの装備化が予定されている。

エア・ウォーリア・システムには、新式のユニバーサル・カモフラージュ・パターンの色彩が採用されている。2005年末までに、6,500セット以上が装備される予定である。

現在補給中のシステムは、色彩が新式のUC(universal camouflage, 全世界共通カモフラージュ)パターンに変更されており、PSGC(Personal Survival Gear Carrier, 個人用サバイバル・ギア)、防弾ベスト、モジュール式拳銃用ホルスター、ASEK(Aircrew Survival Evasion Knife, 搭乗員用サバイバル/脱出用ナイフ)、MCS(Microclimate Cooling System, 個人用冷却システム)、モジュール式改良型ヘルメット・ディスプレイ・サブシステム、海上用救難装備品、EDC(Electronic Data Manager, 電子データ・マネージャ)等で構成されている。

新型PSGC(Personal Survival Gear Carrier, 個人用サバイバル・ギア)

PSGCは、エア・ウォーリア・システムの主体をなすものであり、従来装備されていたAIRSAVE(aircrew integrated recovery survival armor vest and equipment, 航空機搭乗員用改良型サバイバル・防弾ベストおよび関連装備品)の後継器材にあたる。
PSGCに付属している全ての救急品等は、取出しの容易性を考慮して収納されている。医薬品等は、左側のポケットに収納され、識別を容易にするためにゴムバンドで縛着されている。また、再保管する際に使用する開閉可能な収納袋も付属している。

ストロボ・ライト、ミラー等の信号機器は、レンザティック・コンパス(目盛りを確実に読み取るための小型レンズと、目標物の方角を捉えるための覗き窓を装備したコンパス)と一緒に右側のポケットに収納されている。もうひとつの左側のポケットには、PRC90、PRC112またはCSEL(Combat Survivor/Evader Locator, 軍用遭難者等位置探査装置)のうちのいずれかの無線機が収納されている。懐中電灯用の小型のポケットには、本システム専用の懐中電灯が収納されているが、代わりにファントム・ライト(NVG対応の小型懐中電灯)を収納することも可能である。

左側に装着されている弾のうは、M9マガジン(M9拳銃(口径9mm)用の弾装)を3個収納可能であったが、さらに2個のM4マガジン(M4カービン銃(口径5.56mm)用の弾装)も収納できるように変更された。このような設計変更は、部隊からの改善要望に基づくものであり、新式のUCパターンに色彩を変更する際に併せて適用されたものである。

上記に加えて、ポケット寸法の拡大によるファスナーの破損防止、耐久性に優れたコーデュラ製内張りの追加によるポケット内部の磨耗防止、吊り上げ救助用のエクストラクション・ハーネスの寸法変更による襟部の磨耗防止などの対策が行われている。また、システム付属品以外の装備品の装着・収納を可能とするため、PSGCの外側にMOLLE(Modular lightweight load-carrying equipment, モジュール式軽量装備品携行器材)ストラップが追加されている。

防弾ベスト

柔軟な材質を用いた防弾ベストおよび耐7.62mm徹甲弾プレートの防弾能力については、実戦において十分に確認されているが、更に肩ストラップの改修による締め付け具合の改善、ベルクロ取り付け部分の改修によるPSGCの磨耗防止等が逐次実施されている。

新型のモジュール式拳銃用ホルスターは、従来のホルスターと比較して柔軟性が増している。現在補給中のホルスターの色彩は、UCパターンに変更されており、肩及び大腿部のいずれにも装着可能であるほか、PSGCの外側にMOLLEストラップで装着することも可能である。

BAO(Body Armor Overlay, 追加防弾装甲)

BAOシステムは、OH-58Dカイオワ・ウォーリアの狭い操縦席での使用に問題がないか確認するため、第17騎兵連隊第2飛行大隊に試行的に装備された。このシステムの設計、試験、製造および補給は、わずか2ヶ月間で実施されたが、このような飛行部隊の支援があってこそ可能であったと認識している。

BAO本体には、各種のポケットが取り付けられ、防弾ベストとの統一化が図られている。また、MOLLEストラップ等を用いて、各種ポケットを搭乗員の身体の前面や側面に追加することもできる。BAOは、機内における任務遂行を容易にするため、状況に応じて形態を変更することが可能となっている。なお、吊り上げ救助用のエクストラクション・ハーネスについては、更に幅広い用途に使用できるように、各種の海上用救助器材と一緒に使用することを可能にするための改修が計画されている。

顔面防護シールド

顔面防護シールドは、部隊のニーズが非常に高い装備品である。このシールドは、ある程度の耐弾効果を有するとともに、搭乗員の顔面の砂塵からの防護、ドア・ガン射手等の通話音質の向上、寒冷地任務における保温効果等を有している。交換用の顔面防護シールドは、エア・ウォーリア装備部隊からの請求に応じて補給される。

ASEK(Aircrew Survival Evasion Knife, 搭乗員用サバイバル/脱出用ナイフ)

ASEKは、従来はふくらはぎ部のみに装着可能であったが、現在補給中のものは、PSGCの各部に装着可能となっている。緊急脱出時に航空機用シート・ベルトが外れない場合にベルトを切断できるように、ベルト・カッターが組み込まれている。

MCS(Microclimate Cooling System,個人用冷却システム)

MCSは、飛行任務環境の劇的な改善をもたらしている。MCSを装備することにより、高気温時の搭乗員の疲労を格段に減少させるとともに、俊敏かつ安全な任務遂行が可能となったが、信頼性を更に向上させるため、部隊意見に基づく改修を実施中である。特に流体用クイック・ディスコネクト・カップリングを新世代のタイプに変更したことにより、不具合件数は大きく減少するものと予想されている。また、流体用チューブをナイロン強化型チューブに変更することも計画されている。

海上用救難装備品

再設計された救命胴衣は、搭乗者用ヘルメットとの干渉を減少させ、身体の動きを容易にして、疲労を軽減している。

海上任務を主体とする部隊のエア・ウォーリア・システムには、海上用救難装備品が追加されている。新型のSEA(Survival Egress Air, 緊急脱出用呼吸装置)は、搭乗員が水中に没した場合においても緊急呼吸用空気を供給し、航空機からの安全な脱出を可能にする。SEAの維持・補修に必要な各種支援器材についても、本体と同時に補給されている。

PSGCに取り付けられた海上用救難装備品携行用具には、一人用の救命浮舟が紐でつながれており、ハンドルを引くと膨張して使用可能となる。現行の救命胴衣は、HGU-561P型ヘルメットとの干渉が問題となっていたが、新型の救命胴衣は干渉を減少させ、身体の運動を妨げないように工夫されている。これらの付属品についても、その色彩はすべて最新のUCパターンに変更されている。

EDM(Electronic Data Manager, 電子データ・マネージャ)

エア・ウォーリア担当プログラム・マネージャは、OIF(Operations Iraqi Freedom、イラクの自由作戦)及びOEF(Operations Enduring Freedom、不屈の自由作戦)に派遣中の各部隊を支援するため、EDMの開発、試験及び装備を極めて迅速に進めてきた。EDMは、元来、AH-64Aへの搭載することを目的として開発されたが、現在では、UH-60,CH-47,AH-64D及びOH-58Dにも搭載されている。EDMの主たる目的は、電子地図を使用することにより状況把握を容易にして、ペーパーレス・コックピットを実現することであるが、更に性能計算、重量および重量重心、IFR飛行用の進入経路図等の多くの機能が搭載され、AMPS(aviation mission planning system, 航空任務計画システム)を使用して作成された飛行計画データも、EDMにダウンロードして表示させることが可能となっている。

EDMは、従来のニーボードに取って代わり、電子地図、詳細任務計画、各種状況、性能計画及び重量・重量重心計算、計器飛行時の進入経路図などを表示することによりペーパーレス・コックピットを実現する。

EDMは、飛行部隊が作戦遂行用の任務装備品としての機能も有しており、通信図、LZ及びLA要図、偵察経路図等の各種作戦情報が表示可能である。これらの作戦図及び飛行情報は、USBポート又はメモリースティックを経由して部隊内の全EDMにダウンロードし、全ての搭乗員に配布することができる。

EDMには、ファルコン・ビュー(Falcon View, FAA-国防省共有の情報プラット・フォーム用のソフトウェア)もインストールされている。作戦計画の立案には主としてAMPSが使用されるが、ファルコン・ビューを用いることにより、飛行中の任務変更も可能となっている。また、EDM独自の機能として、ISAS(Interactive Situational Awareness Software, 双方向状況把握ソフト)を有しており、グラフィック・ユーザー・インターフェースを用いた各種情報表示により、操縦士の状況把握を容易にしている。EDMの全機能の操作には、タッチ・パネルが採用されており、昼夜を問わず、飛行中に手袋をはめた状態でも操作可能である。

EDMのメニュー画面は、昼夜を問わず、飛行中に手袋をはめたままで、容易に操作することが可能である。

EDMの機能のうち、現在実施中の作戦において最も重要なものは、BFT Aviation(Blue Force Tracking Aviation, 航空機用友軍位置情報追跡システム)の表示・操作である。FBCB2システム(Force XXI Battle Command, Brigade and Below, フォース21旅団以下戦闘システム)は、グラフィカル・ユーザー・インターフェースを用いた、飛行任務遂行上非常に有効なシステムであるが、EDMの状況把握機能もそれとほぼ同一の基本概念に基づいて設計されている。EDMが装備されるまでは、UH-60及びCH-47においては、後部座席上のMILTOPE社製耐環境型ポータブル・コンピュータにFBCB2の状況把握用データを表示させていた。また、AH-64及びOH-58DもBFTを搭載していたが、ディスプレイを搭載しておらず、位置情報送信機能のみで、状況把握機能は有していなかった。現在、OIF及びOEFに投入されているすべての回転翼機には、各1個セットのEDMが装備されており、機上において常に状況を把握できる態勢が整えられている。

EDMには、メール機能も搭載され、平文のメールだけではなく、秘匿メールの送受信も可能である。このメールの受信操作は、プル・ダウン・メニューで簡単に操作が可能であり、パイロットのワークロードが軽減されるように工夫されている。

AWIS(Aircraft Wireless Intercom System, 航空機用ワイヤレス機内通話装置)

従来の機内通話装置は有線式だったため、運用上、各種の制約をもたらすとともに、不安全の要因となる場合があった。このため開発されたのがAWISであり、現在、運用試験を実施中である。

本装置は、当初、イラクにおいて使用されたが、航空機と搭乗員等とを繋いでいたコードがなくなることにより、所望の効果が得られている。HGU-56/P型ヘルメットのコードを本装置に差し込むと、同じチャンネルに設定された搭乗員同士だけが通信できる。

AWISは、航空機の機内通話装置と統合されており、秘匿された無線通話以外の通話をすべての搭乗員等が実施できる。この装置が特に効果を発揮するのは患者後送の場面であり、患者を手当している衛生兵が、機体からのコードに繋がれずに、搭乗員との通話を確保できる。この装置は、最終的には、暗号化機能を含めた航空機の通信システムと完全に統合される予定である。

要 約

エア・ウォーリアの装備は、航空戦士に多くの利便性をもたらし、今後の戦闘様相を大きく変化させるだろう。このシステムが搭乗員の防護、疲労軽減及び能力向上に有効であることには、疑いの余地がない。革命的手法で開発され、最先端技術が導入されたエア・ウォーリアは、今後も更なる性能向上が図られ、今日、明日、そして将来の戦場における厳しい要求に確実に応えてゆくことだろう。

陸軍中佐 マイケル D.ウィルスは、アラバマ州レッドストーン造兵廠の兵士用プログラム・エクゼクティブ・オフィスに勤務するエ
ア・ウォーリア担当のプロダクト・マネージャである。

           

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2005年10月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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