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陸軍航空の情報センター

2021年度アメリカ陸軍航空事故発生状況

有人機

2021年度、アメリカ陸軍の有人機においては、クラスA~Cの事故107件発生した。2020年度の75件と比べると増加している。死亡者数も、7名から13名へと増加した。2020年度に6件であったクラスAの事故は、2021年度には8件に増加した。

概要

クラスAとクラスBの事故は合計17件発生し、そのうち8件は夜間に発生した。17件のうち2件は、生来の決意作戦(Operation Inherent Resolve)および自由の番人作戦(Operation Freedom’s Sentinel)で発生した。17件の事故のうち人的ミスに起因する事故は、14件(82%)を占めた。器材の不具合またはその疑いに起因する事故は、2件(12%)であり、そのうちの1件は環境(落雷)によるものであった。

2021年度のクラスAの飛行事故発生率(回転翼+固定翼)は0.87(10万飛行時間あたりのクラスAの飛行事故件数)であり、クラスA~Cの発生率は6.95であった。2020年度の発生率は、それぞれ0.63および5.83であった。過去5年間のクラスA事故の発生率は0.95であり、クラスA~Cは6.88であった。

2021年度には、クラスCの航空事故の報告件数が55%増加した。この増加は、昨年定められた地上事故報告要求の変更により、機体に生じた損傷または航空機に直接関連する事案が航空地上事故として報告されるようになったことが主な原因である。全般的には、飛行事故の発生状況は昨年から大きく変化していないといえる。

人的ミス

2021年度の人的ミスの区分で特徴的だったのは、緊急操作(emergency procedure, EP)またはその訓練に関連するクラスA事故が4件発生したことであった。そのうちの1件目は、緊急事態に適切に対応できなかったことが原因であった。 2件目は、スタビレーター不具合発生時の緊急操作訓練中に発生した。3件目は、オートローテーション訓練中に落着したものであった。4件目は、地面効果外(out-of-ground-effect, OGE)ホバリング中のエンジン不具合を模擬した緊急操作訓練中に発生した。これらの事故により、10名が死亡した。また、予期していなかった天候急変等による計器飛行状態への対応が不適切であったことにより、1機が大破し、3名が死亡した。AH-64操縦課程(Aviator Qualification Course, AQC)の昼間システム訓練中にも1件の事故が発生した。

地上滑走中のクラスBまたはCの事故が5件、樹木等への衝突事故が11件(クラスC損傷が主体)、ワイヤー・ストライクによる事故が2件発生した。地上取り扱いに関係する事故(クラスCが主体)も9件が報告されている。

器材の不具合

器材の不具合に起因するクラスA事故は発生しなかったが、2件のクラスB事故が発生した。1件目は、離陸直後にUH-60Lのエンジンが完全に壊滅的に損傷し、単発状態での飛行を継続できなかった。2件目は、AH-64Eの改良型デジタルエンジン制御ユニット(Enhanced Digital Engine Control Unit)に故障が発生した。報告された90件のクラスC事故のうち、器材の不具合に関連しているものは17件であり、そのほとんどが電子・電気系統およびエンジンの不具合であった。

2021年度の事故の概要(*印は夜間または暗視装置を用いた飛行中に発生したもの)

有人機クラスA

UH-60L:当該機は、高標高の降着地域で機外搭載物を卸下した後に墜落した。5名のアメリカ軍人および2名の非軍人が死亡し、1名のアメリカ軍人が負傷した。

* CH-47F:非標準の機外搭載物(長方形の可搬式建築物)を懸吊した状態で進入中、搭載物が分断し、機体の下から振り上げられ、胴体の左側面および左側エンジンナセルに接触した。当該機は、懸吊物を卸下するため、卸下地点への進入を継続した。地上要員は、懸吊物の吊り下げていたチェーンおよびストラップが機体の一部に巻き付いているのを確認した。2本のローターブレードに修復不能な損傷が生じ、エンジンカウリングおよび胴体外板にも顕著な損傷が生じた。カーゴ・フックおよび動力伝達系統にも、程度不明の損傷が確認された。

* UH-60L:操縦士の技量評価を実施中、制御不能な降下に陥り、地面に墜落した。3名が死亡し、機体は大破した。

* UH-60L:NVGの年次技量評価のため、山岳地帯における超低空飛行を実施中、計器飛行状態に遭遇した。当該機は墜落し、3名が死亡、機体は大破した。

AH-64E:AH-64E操縦課程において、昼間システム訓練を実施中、ラダー旋回を行った際に地面に接触した。機体は横転し、破壊された。後部座席のパイロットは、遮光カーテンが取り付けられた状態でパイロット夜間暗視システム(pilot night vision system, PNVS)を使って飛行していたが、最小限の負傷で機体を脱出できた。前席の教官操縦士は、生命に影響を及ぼさない程度の負傷を負い、救急隊員によって救出された。

* AH-64D:当該機は、夜間暗視システム(night vision system, NVS)操縦練度評価(proficiency flight evaluation, PFE)飛行の最終段階において、オートローテーション訓練を実施した。滑走路の進入端部で地面に接触し、降着装置を損傷した。負傷者はなかった。機体の損壊程度は、クラスAと判定された。

UH-72A:地面効果外高度からの緊急着陸訓練を実施中、機体が地面に落着した。搭乗員2名が負傷し、機体は大破した。

* UH-60L:駐機中、夜間の予報されていた雷雨の間に、落雷を受けた。当該機を保有する部隊は、悪天候時に機体を格納する建物を保有していなかった。このため、当該部隊のSOP(standing operating procedures, 作戦規定)に従い、チェーンを使って機体を係留していた。翌朝の目視検査中、整備員が損傷を発見した。

無人機

UAS(unmanned aircraft systems, 無人航空機システム)においては、クラスA~C事故44件発生した。その内訳は、クラスAが10件、クラスBが9件、およびクラスCが26件であった。クラスAの事故には、1件のエアロスタット気球によるものと、9件のMQ-1Cによるものがあった。35件のクラスBおよびCの事故のうち29件は、RQ-7Bにおいて発生しており、その要因には、エンジン故障、着陸失敗およびリンク喪失などがあった。

UASクラスA

MQ-1C:当該機は、管制塔から離陸許可を受領後、自動離陸シーケンスに移行した。対地高度100フィートに到達後、意図しない急降下を開始し、地面に激突するまで制御を回復することができなかった。

MQ-1C:当該機は、操作員が着陸を準備中、2回にわたって意図しない降下を行い、地上局とのリンクを喪失して墜落した。迎え角の誤計測により、飛行モードの競合が発生していた。

MQ-1:操作員は、平均海面高度11,500フィートにおいて、それ以上に上昇できないことを確認し、基地への帰投を決心した。当該機は、最終進入において滑走路の手前に着陸し、降着装置が損壊し、滑走路の末端の約40フィート手前で停止した。本事象の間、エンジンは要求された出力を供給できていなかった。

MQ-1C:当該機は、飛行中、燃料系統に異常(燃圧の段階的低下および高圧燃料漏れの兆候)およびFADEC(full authority digital engine control, 全デジタル電子式エンジン制御装置)が発生した。操作員は、基地に帰投させようとしたが、エンジンが正常な出力を発生できなくなった。当該機は、飛行場から約30海里から離れた場所に緊急着陸した。

MQ-1Cスターターのノーズコーンが脱落し、デュアル・マス・フライホイールに接触した後、トーン・リングの歯の表面を損傷させた。

MQ-1C:離陸滑走中に滑走路の末端を超過し、飛行場の柵に衝突し、機体が破断した。離陸できなかった原因は、翼面への霜および氷の蓄積であった。

MQ-1C:当該機は、離陸後、対地高度約7フィートまで上昇した。横方向の機首振れが生じ、対気速度および高度を喪失した。飛行場に戻ったのちに滑走路に接触し、リンクを喪失した。約45度の角度で接地し、滑走路を逸脱した。分圧トランスデューサー(partial pressure transducers, PPT)2および3の読取がPPT 1よりも遅かったため、ヨー方向の制御が過大となり、機首方向の維持が困難となった。

MQ-1C:当該機は、No.4エンジンのシリンダー・ワイヤーが短絡し、瞬間的な過電流が発生した。FADECを含む複数のシステム構成品に大規模な電気システム障害が発生し、電力および推進力が損失して、水平飛行を維持できなくなった。

MQ-1C:当該機は、離陸直後にリンクを喪失した。迎え角センサーの故障により、低高度で失速保護モードに入り、森林内に降下・墜落した。

エアロスタット クラスA

PSS-T:標高約2,500フィートで運用中、旋風がエアロスタット本体に吹き付け、機首が沈み、係留プラットフォームと違う方向に旋回しはじめた。操作員は、係留プラットフォームをエアロスタット本体の方向に再調整しようとした。本体に過大な向かい角および動揺が生じ、係留綱の張力が過大となったため、エアロスタットがプラットフォームから分断した。操作員が飛行停止システムを起動し、エアロスタットは約17km離れた場所に接地した。

その他のUASの事故

RQ-7B:飛行訓練中、シリンダー・ヘッドの低温度警報が作動し、エンジン推力が失われた。直ちに回復操作を行ったものの、高度が低下しはじめた。当該機は、非居住地域に移動した後、エンジンが完全に故障し、飛行停止システムが起動した。(クラスB)

RQ-7B:当該機は、着陸最終決心高度以下に降下後、予報されていなかった突風に遭遇した。上向きの向かい風により、機体の機首が持ち上がり、滑空角が過大となった。戦術自動着陸システムにより、機首が着陸点に向けて急激に下げられた。まず、搭載装備品が滑走路に接触した。その後、アレスティング・ギアに向かってバウンドを続け、搭載装備品および後方テールブーム・キャップが損傷した。(クラスB)

RQ-7B:当該機は、着陸準備中、平均海面高度1,500フィートの回収高度に到達し、着陸を指示された。着陸最終決定高度に到達した時点で、機体は適切な地点を飛行しており、通常どおり着陸が進行していた。接地後、アレスティング・ギアに捕捉されたものの、アレスティング・ギアの故障により機体が急激に停止し、主脚が破断し、搭載されていた情報収集器材が損傷した。機体は、胴体と前輪が接地した状態で停止した。(クラスC)

要約

有人機の事故発生率に関しては、2021年度は過去5年間と同じレベルであり、過去10年間にわたる減少傾向を継続できた。無人機であるMQ-1Cの事故発生率は、過去5年間の平均よりも増加したが、急激なものではなかった。RQ-7Bの事故発生率は、過去5年間の平均とほぼ同一であった。航空事故発生件数の減少傾向を今後も維持するためには、手順、基準および監督を適切に実施し、事故の原因となる人的ミスとの戦いを継続することが何よりも重要である。

                               

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2022年03月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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