空軍特殊作戦部隊のオスプレイの墜落原因
(2012年)6月、空軍のCV-22Bオスプレイがエグリン空軍基地近郊で突然左にロールし松林に墜落した事故は、当該機が「不用意に」もう1機のオスプレイの後方乱流の中を飛行したことが原因である。木曜日に発表された空軍の調査結果は、そのように「明白かつ確信を持つに足る証拠」をもって結論付けた。
この報告は、事故機に搭乗していた2名のパイロットを擁護する内容となった。報告では伏せられているが、当該機に搭乗していたのはブライアン・ルース少佐とブレット・キャシディ大尉であり、事故当時は副操縦士であるキャシディ大尉が操縦していたことが明らかになっている。報告書は、「CV-22の後流のモデル化が不十分であったため、先行機からの安全離隔距離を判断することは困難であった」と述べた。
墜落したオスプレイを操縦していたキャシディ大尉は、先行機から「規定されている25フィートの垂直離隔距離を確保していなかった」が、水平離隔距離については、取扱書の規定の「2倍から3倍」を確保できていた、と報告書は付け加えた。
「編隊内の航空機のコックピットとコクピットの間の最低離隔距離を250フィートとする規定と、後流の影響が及ぶのは375フィートまでであるとするチャートは、先行機から相当に大きな離隔距離を確保して飛行する場合に、誤った安心感をもたらす可能性があった」と報告書は述べた。
空軍特殊作戦コマンドの女性報道官であるクリスティン・ダンカンは、事故当時のパイロットの行動が懲戒処分に該当するかどうかは、空軍特殊作戦コマンド司令官が個別に判断する、と述べた。
報告書によれば、死亡者が発生せずに済んだのは、ロールが始まってからルース少佐とキャシディ大尉の操縦が機体姿勢を立て直したためであった。ただし、7850万ドルのオスプレイは完全に破壊され、フロリダ州ハルバート・フィールドに所在する第8特殊作戦飛行隊所属の5名の搭乗員は、全員が負傷し入院が必要となった。本ウェブ・サイト(ブレイキング・ディフェンス)が既に報告していたとおり、ルース少佐は、過去に死亡事故を起こした唯一のCV-22で副操縦士を務めていたパイロットである。2010年4月8日、アフガニスタンで夜間飛行中に発生したそのオスプレイの事故は、操縦していたパイロットと20名の兵員などの搭乗者のうち3名が死亡したものであった。
今回の事故に関し、空軍の報告書が公表され、かつ、オスプレイ自体に問題が見つからなかったことは、沖縄の普天間海兵隊航空基地へのMV-22Bの2個飛行隊の配備を承認するように日本当局を促すことになるであろう。オスプレイは海兵隊が運用する回転翼機の中で最も安全な航空機として位置づけられているにも関わらず、日本においては、その安全性に対する懸念が広がっている。このため、7月に日本に初めて輸送された12機のMV-22Bは、日本政府が同意するまで飛行を保留するように求められている。
CV-22Bは、海兵隊のMV-22Bと同様に、ナセルと呼ばれる翼端のエンジンとローターを保持するポッドを上方に向けたり、前方に向けたりすることによって、ヘリコプターのように離着陸できるし、飛行機のように飛行することもできる航空機である。このフロリダ州での事故は、6月13日6:40(現地時間)、編隊射撃訓練を実施するためハルバートからエグリン演習場に向けて飛び立ってから、わずか7分後に発生した。その訓練においては、キャシディ大尉が操縦するCV-22Bがナセルを80度まで上に向けた状態で80ノットで飛行している最中に、搭乗員のうちの1名が、開放された後方ランプドアに装着された機関銃で射撃を行うことになっていた。
射撃空域へと向かうため、先行機が機体を30度にバンクさせながら、左方向への180度の方向転換を開始した時、その事故は発生した。報告書によれば、旋回中に先行機は366フィートから336フィートに降下した。このことがキャシディ大尉に「十分な垂直離隔距離を保持できているという誤った認識」を与えることになった、と報告書は述べた。先行しているオスプレイが旋回を始めると、354フィートの高度を飛行していたキャシディ大尉は、離隔距離を確保するため、わずかに右に旋回し、その後すぐに左に30度バンクさせた。
「この機動により、事故機が先行機の真後ろに位置したわけではない」が、先行機の後流を横断する形になってしまった。キャシディ大尉のオスプレイの左ローターが先行機の後流の中に入ったとたん、彼の操縦するCV-22Bは「突然、制御不能な左ロールに入った」。ルース少佐も「操縦かんを握り、(キャシディ大尉と共に)ロール状態から回復させようとした」。しかしながら、当該機は翼を水平に戻そうとしている間に、「降下を止めること」ができず樹木に衝突し、その後地面に墜落した。初期の段階では、当該機は背中側を下にして接地したという情報もあったが、実際には、ナセルを80度上方に向け、機首をやや上方に上げた状態で接地していた、と報告書は述べた。
オスプレイの直径38フィートのローターは、強烈なダウン・ウォッシュを生成する。その原因の1つは、ローターがこの大きさや重量の機体にとっては、小さすぎることにある。それは、V-22を強襲揚陸艦の甲板で運用できるという要求事項を満たすために生じた特徴であった。オスプレイのダウン・ウォッシュは、あまりにも強烈であるため、パイロットは、ヘリコプター・モードで編隊飛行を行う際には、前方を飛行するV-22から自分のコックピットまでの間に少なくとも250フィートの距離を確保するように教育されている。
さらに、海兵隊および空軍の取扱書には、そのような状況で飛行する際には、先行機の5時から7時の方向に位置することを避けること、いかなる場合においても先行機よりも25フィート以上高い高度を飛行すること、および編隊での旋回中に先行機の後流を横断せざるを得ない場合には50フィート以上に高度差を増加させること、という警告が記載されている。ただし、空軍特殊作戦部隊のオスプレイ・パイロットは、編隊飛行を行う機会が極めて少ない。キャシディ大尉が遭遇した状況は、CV-22Bのパイロットにとって、正確な判断を下すのが難しいケースだったかもしれない。
出典:Breaking Defense, Breaking Media, Inc. 2012年08月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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3件のコメント
この記事は、オスプレイに関するノンフィクション「ドリーム・マシーン」の原著者であるリチャード・ウィッテル氏が、オスプレイ関係者にとって参考となる記事として紹介してくれた、いくつかの記事のうちのひとつです。他の記事についても、引き続き、翻訳・掲載してゆきたいと思います。
こんにちは、お疲れ様です。
毎記事興味深く読ませていただいております。
中盤の”報告書によれば、旋回中に先行機は336フィートから336フィートに降下した。”との部分ですが、
原文が”the lead aircraft descended from 366 to 336 feet”なのでタイプミスかと思われます。
固定翼と回転翼の特徴を併せ持った新分類のオスプレイであり、米軍でも運用開始から7年(当時)も経っていないからこその事故のように読めました。この事故から6年経過しましたが、米軍の取扱書の規定が更新されたのでしょうか?
我が国にも導入が進められておりますが、こういった経験が日米両軍の運用部隊に遅延なく共有されるか、その体制が構築されているかまでは国民目線では分からないところですね。
ありがとうございます。直ちに修正させていただきます。
今後とも、よろしくお願いいたします。