オスプレイは飛行停止以前から安全上の問題を抱えていた
2023年12月6日、アメリカ軍はV-22オスプレイ全機を飛行停止するという異例の措置をとったが、その理由は11月29日に日本で発生した死亡事故だけではない。オスプレイは、その短い歴史の間に数多くの問題を抱えてきたのである。
この機体は、ヘリコプターのように離着陸することもできるし、プロペラを水平に傾けて飛行機のように飛行することもできる。その複雑な設計により、部隊を迅速に戦場に投入できる機体となっている。オスプレイの大部分を占める数百機の機体を運用しているアメリカ海兵隊は、この機体を「革新的な強襲支援航空機(game-changing assault support platform)」と呼んでいる。
しかし、アメリカ空軍、海軍および海兵隊は、12月6日にすべてのオスプレイを飛行停止にした。11月29日に発生した墜落事故の予備調査で、搭乗していた空軍特殊作戦コマンドの兵士8名全員の死亡をもたらした原因が器材の不具合(機体自体の何らかの異常)だったと判明したからである。
この機体にとって、飛行停止は初めてのことではない。特に10年以上にわたってオスプレイ・プログラムを悩ませてきたクラッチの機械的不具合については、いくつかの疑問が根強く残っていた。また、オスプレイのすべての部品が仕様どおりに製造されているのか、また、老朽化してもオスプレイ特有の構造やティルトローター機の飛行力学によって生じる大きな応力に耐え得る強度を十分に維持できているのかについても疑問が生じていた。
アメリカ以外でオスプレイを唯一運用している日本政府は、11月29日の墜落事故後直ちに、自国が保有するオスプレイの飛行を停止していた。
1992年から2007年まで国防総省の試験評価室でオスプレイに関する分析を行い、国防分析研究所のアナリストとして勤務した元空軍パイロットであり、かねてよりこの機体の安全性に関し軍関係者に疑問を投げかけてきたレックス・リヴォロ氏は、「飛行停止した判断は正しい」と述べた。「現時点において、アメリカ軍に他に選択の余地はありません。」
オスプレイはアメリカ海兵隊と空軍特殊作戦コマンドの主力機であり、海上の空母に人員を輸送するC-2グレイハウンド(プロペラ機)の後継機として海軍にも採用されている機体である。
海兵隊のオスプレイは、大統領に同行するホワイトハウス職員、報道陣、警備要員の輸送にも使用されている。ホワイトハウス国家安全保障会議のジョン・カービー報道官は、飛行停止の影響は自分たちにも及ぶことになると述べた。
空軍特殊作戦コマンドは、オスプレイが飛行停止となっても、作戦、訓練、即応態勢への影響が小さくなるように努めるとしている。報道官のベッキー・ヘイス中佐は、空軍特殊作戦コマンドは他機種をもって引き続き運用を継続し、オスプレイ搭乗員はシミュレーターで訓練を続けると述べた。
他の軍種の対応については、現時点では明らかにされていない。
クラッチに関する疑問
オスプレイが数十年にわたる試験を経てようやく実用化にこぎつけたのは、2007年のことであった。しかし、それ以降これまでにオスプレイの飛行試験や訓練飛行中の事故で50人以上の兵士が死亡しており、そのうち20名は過去20ヶ月間の4件の墜落事故によるものであった。
2023年7月、海兵隊はオスプレイの死亡事故のうち1件の原因が何年も前から知られているが未だに有効な解決策が見つかっていない機種全体の問題であったことをはじめて明らかにした。その問題は、ハード・クラッチ・エンゲージメント (hard clutch engagement, HCE) と呼ばれている。
オスプレイの2つのエンジンは、主翼の中を通るインターコネクテッド・ドライブ・シャフトなどによって連結されている。翼端部にあるエンジンの近くにはスプラグ・クラッチと呼ばれる部品があり、エンジンのトルク(動力)を伝達する役割を担っている。伝達されたトルクはその前方のプロップローターだけではなく、もう一方のプロップローターにも伝えられ、両方のローターが同じ速度で回転するようになっている(訳者注)。オスプレイの飛行バランスはこの機構によって保たれているのである。スプラグ・クラッチは安全上の機能も有しており、2つのエンジンのうち 一方が故障した場合に故障したエンジンを切り離すことで、作動しているエンジンで両方のローターを駆動できるようになっている(訳者注)。
しかし、そのスプラグ・クラッチが安全上の懸念を生み出しているのである。空軍、海軍および海兵隊は2022年の事故を受けてHCE事象の調査を開始し、クラッチの摩耗が予想よりも早い可能性があると判断した。
2010年以来、オスプレイのクラッチがスリップした事象は少なくとも15回発生している。クラッチがそのスリップ状態から復旧する際に生じるのがハード・クラッチ・エンゲージメント(HCE)である。HCE事象が発生すると再接続によりパワー・スパイク(エンジン出力の衝撃的な増大)が生じ、オスプレイを制御不能な横揺れや横滑りに陥らせる可能性がある(訳者注)。さらには、スプラグ・クラッチが破壊され、インターコネクテッド・ドライブ・シャフトが破断される可能性もある。その結果、オスプレイや搭乗員を救うためにパイロットが反応する時間がほとんどまたはまったくないまま機体の制御が完全に失われる可能性がある、とリヴォロ氏は述べた。
2022年にカリフォルニア州で海兵隊MV-22が墜落して海兵隊員5名が死亡した事故では、ハード・クラッチ・エンゲージメントにより「壊滅的かつ予測困難な機械的故障」が生じたことが調査により判明している(訳者注)。この事故では激しい火災のためにフライト・データ・レコーダーが破壊されてしまった。海兵隊は、この問題を解決するため、より強度が高い新型のフライト・データ・レコーダーを要求している。
オスプレイの飛行停止は初めてのことではない
空軍特殊作戦コマンド司令官のジェームス・スリーフ中将は、2022年に6週間で2件のハード・クラッチ・エンゲージメントに起因する事故が発生した際、空軍のすべてのオスプレイを2週間にわたって飛行停止にした。また、2023年2月には、クラッチ交換作業の開始に伴い、全ての軍種のオスプレイの一部(機数は非公表)が一時的に飛行停止状態となった。
しかし、すべての機体について交換作業が行えるかどうかは必要な部品を入手できるかどうかにかかっている、とスリーフ中将は述べていた。
しかも、その交換作業が問題の解決になっているのかどうかについても疑問がある。いずれの軍種も、軍需企業であるベル・テキストロン社やボーイング社も、この問題の根本的な原因を究明できていないのである。クラッチは「問題の表れかもしれない」が根本的な原因ではない、とスライフ中将も語っていた。
11月29日の墜落事故について、日本のメディアであるNHKは、機体が「突然、ひっくり返り、その直後に左翼側のプロペラのあたりから火が出てその部分が爆発し、そのまま海に落ちていった」という目撃証言を報じている(訳者注)。リヴォロ氏は、その証言が正しいとするならば、クラッチやインターコネクテッド・ドライブ・シャフトの故障が原因である可能性について調査するべきだと述べた。
2022年の墜落事故の調査後、海兵隊はいくつかの勧告を行った。その中には、クラッチの滑りやハード・クラッチ・エンゲージメントを軽減できる新型のクイル・アセンブリの設計や、動力伝達系統の材質の強化などが含まれていた。
この機体の開発および生産を担当するV-22ジョイント・プログラム・オフィスによると、そのための事業はすでに進行中だという。新型のクイル・アセンブリの設計は最終段階にあり、試作品の試験が来年初めに開始される予定となっている。
ジョイント・プログラム・オフィスは、オスプレイの飛行停止中にはどのような検査が行われるのかというミリタリー・タイムズからの質問に対し、まだ不明であると答えた。
海軍航空システム・コマンドのマーシア・ハート報道官は7日、「事故調査により事故の要因が徹底的に調査され、発見された問題に対する対策を講じるための勧告が発出されることになります」と述べた。
ある内部告発者の疑問
ある内部告発者が訴訟を提起した部材強度の問題に関し、ボーイング社は9月に司法省と810万ドルで和解した。その訴訟は、オスプレイの複合材部品の強化処理が国防総省の仕様に従った均一な温度で行われるために必要な試験の実施を証明する記録について、ボーイング社が改ざんを行っていたという、V-22の複合材を製造していたボーイング社の元従業員2名の告発に基づくものであった。
複合材表面の分子結合を均一にするためには、その処理が一定の温度で行われる必要がある。訴訟においては、それが不完全な場合、「樹脂の空隙や線状の間隙などの目に見えない欠陥が含まれることになり、材料強度などを低下させ、壊滅的な構造的欠陥を引き起こす可能性がある」という主張がなされた。
司法省は和解の中で、ボーイング社は2007年から2018年まで国防総省の製造基準を満たしていなかったと主張した。内部告発者らの訴訟中での主張によれば、その期間内に引き渡された80機以上のオスプレイが影響を受けた可能性がある。
ボーイング社はAP通信への声明で、「(ボーイング社の)責任を認めたわけではなく、虚偽請求取締法の特定の申し立てを解決するために」司法省および海軍と和解したと述べた。
ボーイング社によれば、V-22には多数の複合材が使用されているが、訴訟で問題となった部品は「すべて飛行安全に関係しない重要ではない部品」である。
また、「複合部品の硬化手順は遵守されている」とも述べられている。「さらに、日本での事故の原因は現時点では不明です。ご要望に応じて支援を提供できるように準備しています。」とのコメントが付け加えられた。
進行中の改修
V-22ジョイント・プログラム・オフィスは、2022年の事故以来、ハード・クラッチ・エンゲージメントの原因特定に向けた大きな進歩があったと述べた。
AP通信に対する声明では、「根本原因はまだ特定されていないが、政府および企業の合同チームは調査範囲をある有力な理論に絞り込んでいます」と述べている。「その有力な理論は、長期間設置されていたクラッチの部分的接続の問題も網羅したものとなっています。まだ完全に証明されたわけではありませんが、これまでに得られたデータもそれを裏付けています」
ベル社はボーイングと提携し、テキサス州アマリロにある施設でオスプレイの組み立てを行っている。同社は11月29日の事故についてはコメントを避けたが、事故が発生した場合には軍と連携して対処すると述べた。広報担当ジェイ・ヘルナンデス氏によれば、「その支援のレベルは、調査を担当する軍の安全機関によって決定」されることになる。
海兵隊は、2022年の死亡事故に関する報告書の中で、軍も製造会社も根本的な原因は特定できていないとし、さらなる事故が起こる可能性も否定してはいなかった(訳者注)。同報告書は、同種事故の再発防止のためには「飛行制御システムのソフトウェア、動力伝達系統構成品の材料強度、および厳格な検査要求事項の設定などの改善が不可欠」だと述べていたのである。
本記事の作成にはエアフォース・タイムズ編集者のレイチェル・S・コーエンが協力した。
AP通信 タラ・コップについて
タラ・コップはAP通信の国防総省担当特派員です。彼女はサイトライン・メディア・グループの国防総省支局長を務めていました。
訳者注:公表されている事故調査報告書などに基づき、原文の記述を一部修正して翻訳しています。