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IFF(敵味方識別装置)

次世代トランスポンダ「マーク12A」の装備

ピーター・バルトッシュ

国防省は、今後数年以内に陸軍の固定翼機、回転翼機及び一部の無人機への新型IFF,敵味方識別装置)用トランスポンダの装備を開始する。
 次世代型のマーク12A型トランスポンダを装備することにより、「モード5」と呼ばれる新しいIFF軍用モードが利用できるようになる。
 50年以上も前にNATOが初めて装備したIFFは、マーク10型のインテロゲータ(質問機)及びトランスポンダ(応答機)で構成されていたが、その後すぐに現行のマーク12型(モード4)のシステムに変更され、現在に至っている。

IFFの問題点

IFF(identification friend or foe,敵味方識別装置)という名称は、この装置の実体を正確に表わしてはいない。防空及び航空管制レーダーのIFFインテロゲータが識別できるのは、対象機が友軍であるかどうかのみであり、友軍以外の対象機は不明として処理される。
 1994年4月14日、イラク北部で「プロバイド・コンフォート作戦」に参加していた2機のUH-60ブラック・ホーク・ヘリコプター(米陸軍所属)に発生した友軍相撃事故は、米国防省及びNATO当局のIFFシステムへの関心を大いに高め、米陸軍のIFF能力向上を促すこととなった。
 現行のモード4が有する問題点は、次のとおりである。
・ 民間空域におけるモード4の使用がFAA(Federal Aviation Administration,連邦航空局)により認められていない。
・ モード4の暗号技術がNSA(National Security Agency,国家安全保障局)の管理対象から除外されてしまった。
・ 一度にローディングできる暗号キーが2個期間分だけである。

米陸軍の防空及び航空管制レーダー・システムには、AN/TPX-57インテロゲータが装備され、モード4及び5の双方で同時に質問することが可能となる。

統合参謀本部は、1995年から1998年にかけて、戦闘における彼我識別に関する研究を行い、今後もIFFシステムを整備する必要があるとの結論に至った。防空戦闘における生存性を確保するために必要な迅速性及び信頼性を兼ね備えたシステムは、IFF以外にないのである。
 1998年、NATOがモード4からモード5への換装を決定したことを受け、統合参謀本部議長はモード5要求性能書の作成を米海軍に命じた。
 1999年に承認されたその要求性能書には、以下の事項が含まれていた。
・ 民間の航空管制との干渉がないこと
・ 質問及び応答の双方に関し、暗号保全に必要な情報がNSAに提供されること
・ 航空機の標定及び識別のため、モード5独自の位置情報及び識別符号を使用すること
・ 航空機が「ステルス」又は「エミッション・コントロール(電波発出制限)」モードで飛行している場合においても、質問に反応すること

米陸軍における装備状況

米陸軍は、既にモード5を導入できる態勢を整えつつある。しかしながら、米国防省及びNATOに所属するすべての機体からモード4が排除されるまでには、少なくとも10から15年間を要すると考えられ、米陸軍は、今後も長期間にわたってモード4とモード5を併用しなければならないものと見積もられる。
 米陸軍は、モード4とモード5で同時に質問することが可能なAN/TPX-57を防空及び航空管制システムに組み込むとともに、AN/APX-118、AN/APX-119及びAN/APX-123という3種類のトランスポンダの航空機への装備を進めている。

AN/APX-118トランスポンダ(写真左側は、制御機)は、モード1、2、3/A、C、4及びSの機能を有し、陸軍のヘリコプターに搭載される予定である。

AN/APX-118は、米陸軍のヘリコプター及びUAS(unmanned aircraft systems,無人航空機)用のトランスポンダである。このトランスポンダは、モード4用の暗号を内蔵するため、KIT-1C型コンピュータが不要である。現行のAN/APX-118にモード5機能を追加し、AN/APX-123へと改修するとともに、新造機用のAPX-123を新たに調達している。
 APX-119は、米陸軍の固定翼機用に装備されているトランスポンダである。このトランスポンダは、モード5に対応しているものの、内部に組み込まれている暗号モジュールがモード4用のものとなっていた。現在組み込まれているKIV-119暗号モジュールをKIV-77モジュールに交換することにより、モード5が利用できるようになる。
 なお、モード5を運用するためには、TS-4530型IFFテスト・セットとAN/PYQ-10C型SKL( Simple Key Loader,シンプル・キー・ローダー)が必要であるが、これらのモード5対応型テスト・セットの調達については、計画どおりに進行していない。一方、現時点においては、国防長官府により義務付けられている離陸前の全暗号キーのトランスポンダへの入力及び点検を引き続き実施しなければならない。このため、陸軍航空は、TS-4530型IFFテスト・セットが装備されるまでの間、モード5機能を有するトランスポンダの航空機への搭載を見合わせることにしている。

モード5が運用に及ぼす影響

モード5は、モード4とは異なる波形を用いているため、他のモードを同時に使用しても干渉することがない。
 モード5は、地球上のどこでもUTC(Coordinated Universal Time,協定世界時)を使用しており、陸軍の航空機用トランスポンダの場合は、航空機に搭載されたGPSシステムから時間情報を得ている。
 モード5用トランスポンダには、31時間単位までのTEK(管制暗号キー,Traffic Encryption Key)、31個までのモード4キー及び31個までのモード5キーのローディングが可能である。モード4及びモード5キーは、暗号期間毎に自動的に変更され、操縦士によるA/B期間選択スイッチの切り替えが不要である。

陸軍の固定翼機には、同じくモード1,2、3/A、C、4及びSの機能を有するAN/APX-119トランスポンダが装備される予定である。

TEKをSKLでインテロゲータ及びトランスポンダにローディングする際には、KEK(Key Encryption Key,キー暗号化キー)及びAEK(Algorithm Encryption Key,アルゴリズム暗号化キー)という2つのキーを併せてローディングしなければならない。
 モード5の応答には、SIF(Selective Identification Feature,選択性識別装置)機能に必要な信号が含まれている。その信号は、モード1:航空機識別コード及び国籍コード、モード2:エマージェンシー・コード、I/P(Identification Pulse,識別パルス)コード及びUASコード等の特殊コード、モード3及びC:位置及び高度に関する情報等で構成されている。なお、モード5の位置応答機能は、モード5レベル2機能と称される場合がある。
 モード5は、「スキッター機能」を有している。この機能は、暗号で保護されている点を除けば、ADS-B(Automatic Dependency Surveillance- Broadcast,放送型自動位置情報伝送・監視)(訳者注:被監視者(航空機側)が自ら監視情報(識別、位置、速度、経路意図等)を多数の監視者(管制機関側)に一括送信する高度な航空監視システム)と類似した機能である。
 また、モード5は、「リーサル・インテロゲーション・モード」を有しており、このモードが機能していれば、例えトランスポンダがスタンバイ状態であっても、陸軍機を味方の防空システムから防護することができる。
 さらに、モード5は、近接隊形で飛行している航空機であっても個々に識別コードを割り当て、航空管制及び防空組織が各航空機を完全に識別することを可能にする。
 APX-118、APX-119及びAPX-123は、全て従来のSIF及びモードS機能を有している。スキッター機能が備わったことにより、防空及び航空管制システムの二次レーダー(訳者注:質問信号を発信し、航空機等に搭載されたトランスポンダの応答信号を受信して、必要な情報を知るレーダー)による質問が不要となる可能性がある。
 NSAは、モード5については、トランスポンダを取り外す等の何らかの手が加えられるとKEK及びAEKが自動的にゼロイズされること、また、使用されている暗号自体の耐干渉性能が高いことから、一旦インストールしたならば、使用者によるゼロイズを不要とすることに決定している。つまり、モード5用暗号器材は、電子的に施錠された後は、「秘区分なし」として管理することが可能となる。
 モード5の有する問題点のうち、主要なものは次のとおりである。
・ 暗号キーを保持するためには、内部バッテリ又は機体からの電源供給が必要である。
・ 暗号キーのうち、「クオドラント暗号化キー」と呼ばれる重要な部分は、補給処整備でなければ、再ローディングできない。
・ 暗号キーのローディングには、現行のKOI-18、KYK-13又はKYK-15は使用できず、「コモン・ティア3」と呼ばれるソフトウエアをインストールしたCYZ-10又はPYQ-10データ転送器材を用いなければならない。
・ APX-118、APX-119及びAPX-123は、FAAが2020年までに義務化を予定している「ADS-B OUT」に対応していない。

結 論

モード5の導入は、情報保障及び機能性能の向上、並びに航空管制との干渉防止という面において、大きな進歩をもたらすものである。米陸軍が実施する予定の試験において、良好な結果が得られれば、その装備化が開始されるであろう。
 米国防省は、2014年度に運用を開始し、2020年度に運用体制を完全に整えることを目指している。

最後に

部隊等で閲覧可能なモード5に関する出版物としては、「Mark XIIA JCONEMP(Joint Concept of Employment,ジョイント・コンセプト・オブ・エンプロイメント)」がある。JCONEMPは、いずれは陸軍教範のような統合出版物になる予定であるが、現時点においては、部内限りの文書であり、部隊等における指揮官等がTTP(tactics, techniques and procedure,戦法、戦技及び手順)を確立するための参考資料として位置づけられている。
 また、さらに多くの情報を含んだ技術出版物である「DODAIMS 04-900」及び「DOD AIMS 03-10000A」が米国国防総省から発刊されている。部隊等がTTPを確立し、将来の教範作成に必要な情報を提供するためには、これらの出版物を入手し、参照することが必要である。

 退役陸軍少佐であるピーター・バルトッシュは、アラスカ州フォート・ラッカー内の米陸軍航空センターのコンセプト・アンド・リクアイアメンツ部長に対し、アビオニクスの要求性能を立案・提出した民間製造会社の社員である。
出典:ARMY AVIATION, Oct 2008, Army Aviation Association of America
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    かなり古い記事なのですが、多くの方に読んでいただいているようです。搭載通電機器に関する記事があれば、積極的に翻訳・掲載してゆきたいと思います。




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